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Life Changer(裏)6 [小説]

第二章3

下河原とのカウンセリングの日がやってきた。この日は今回のプロジェクトには重要な日だ。対象と直接接触をとることはあまりないことだが、今回は接触オペレーションが組まれている。

ただ、今回は直接の接触で大幅に修正することは必要なく、状況の確認をしながら本来のカウンセリングの目的も達成できるだろう。

Ruriの状態は安定している。病状も進行している様子はないし、精神状況も安定して創作活動を行っているようだ。保安要員からの報告にとくに変わったところはない。

下河原は午前中の定期診断を終え、カウンセリングにやってきた。

「今回のカウンセリングは定期診断に含まれるものではありません。勤労省の判断であなたにカウンセリングが必要ではないかと判断して、時間をとらせていただきました。」

下河原は今回のカウンセリングに不信感を持っているのか、理由を聞いてきた。

「ここ数ヶ月、若干ですが生産性に衰えが見られます。年齢的には考えられないことなので、なにか問題があるのではないかと思いまして。自主的にカウンセリングを受けにくいとおっしゃる方もいらっしゃるので、相談しやすいようにこちらから積極的にお話を伺おうと思いまして。」

今回のプロジェクトがなければ、本当にこの件でのカウンセリングを行う可能性があったのでこれは嘘ではない。このまま通常のカウンセリングを続けてもいいだろう。

「面接では言えないようなことでも大丈夫です。ここでのお話は今回の評価とは関係ございません。今後評価を左右する事態に陥らないようにするカウンセリングですので、ご理解をいただいて、何でもご相談ください。」

そう言われて自分の状態を正直に説明する人間は少ない。状況によってこちらのつかんでいる状況をストレートに話すことになるだろう。それで衝撃を受ける場合もあるだろうが、下河原の場合は状態が落ち着いてきているので大丈夫だろう。

ケンダシティへの旅行のっことを聞いても自分の状況に触れようとしない下河原に、こうきりだしてみた。

「あなたは、ウソをついていますね。」

大体の人間は核心を突かれると動揺して、正直な反応を示す。下河原も大きく動揺したために、思考パターンセンサーの話をして、自殺の傾向があることを説明した。

下河原は自殺を考えた人間に対する処分が気になっているようだ。無理もない、能力を分析してふさわしい職業を薦める労働者階級制では能力評価によって仕事が左右されると思っている人間が多い。制度ができて50年経っても正確な意図は伝わりにくいものだ。もともとは企業の垣根を越えて労働者の移籍をしやすくするものであったはずだが、労働力確保の面が強くなってしまって、今では世界的な労働力の融通制度のように思われてしまっている。

「処分なんて・・・。そう考えた原因を取り除いて、また以前と同じ、いや以上の労働力として復帰していただくために支援をさせていただこうと思っております。そのためのカウンセリングなのです。」

今回のプロジェクトでは下河原の誤解をそのままにしておく方が都合がよいようなので、労働力としての自己を認識させるような言葉を使ってみた。

さて、どうなるか。


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