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或る男の半生29 [小説]

3.ひろみ(14)


前略


お元気ですか?

先日の置き手紙では伝えられなかったことがたくさんあります。

その後、伝えるべきか否か迷ったのですが、先日あなたの姿をこちらで見かけ、まだ私のことを探しているのだと思いました。

これ以上、あなたに迷惑をかけられないと思ったので、全てをお話しすることにしました。

この手紙を読んだ後は私のことを忘れてください。

ご自分で探すことはやめてください。

警察に被害届を出してくれてもかまいません。

私は、それほどひどいことをしたのだから。

自分から警察に出向くことは出来ないけれど、あなたの被害届によって捕まるのなら観念します。

お願いです、私を捜すのはやめてください。見つかっても私はあなたのところには戻りません。

勝手な言い分ですが、あなたにはきっとふさわしい相手が見つかると思います。

こんなにやさしいのだから。


本題に入ります。


私の語った生い立ちのほとんどは本当のことです。

生まれは仙台ですし、両親が早くなくなったことも間違いありません。

東京へ出て、最終的には水商売に落ち着いたことも真実です。

そして、土方のことも・・・。


土方との関係は・・・ 嘘を吐きました。


多分、あなたは想像がついていると思いますが、神崎は・・・・・・土方です。


土方との出会いはお話ししたとおりですが、その後土方から逃げ結局追いつかれてしまったのです。


水商売から足を洗うつもりで関東を離れたのですが、結局水商売から離れられませんでした。

名古屋の「K」というお店で見つかってしまったのです。

もしかしたら、あなたも話を聞きに行ったかもしれませんね。

市議さんと知り合ったのもそこでした。

ただ、市議さんは良くしてくれたのですが土方の存在は知らないはずです。

土方は私のところに転がり込んできました。

私を捜すために仕事を辞め、日雇いで暮らしていると言ってました。

私のためにそこまで・・・・。

結局情にほだされて・・・。

土方と暮らし始めて間もなく、子供が出来ました。

店には知られたくなかったので、おなかが目立ってくる前に店を辞め一年ほど土方の稼ぎで暮らしていました。

土方の稼ぎだけでは生活は苦しく、子供が生まれて半年も経つ頃には私は水商売に戻って居ました。

土方の仕事に合わせて住まいは大阪、京都、大垣と転々としましたが、貧しい中にも結構楽しい毎日を過ごしていました。

中でも大垣では気の合う友人も出来、しばらくここで落ち着こうかと考えていました。

水商売から足を洗って普通のお勤めに変わることも考え、友人に相談したこともあります。

でも、結局土方がそれを許してくれませんでした。

私の稼ぎがなければ贅沢が出来なくなってしまう。その頃でも贅沢をしていたわけではないですけれど、土方の稼ぎだけでは生活していくのに精一杯になってしまうのです。

結局大垣の店も辞め、土方の仕事が名古屋になったので名古屋に戻ってきました。

そこで、土方があなたを見つけたのです。


あなたと出会う前の現場です。

直接は話さなかったけれどあなたのことを小耳に挟んだと言っていました。

北海道の農家のボンボンで、女から逃げている奴が居る。

北海道には相当な土地があるのでそれをうまく金に換えることは出来ないかと考えたようでした。

あなたが、あまりに人が良くて騙しやすそうだったから・・・・。と土方は言っていました。

まもなく、都合の良い少し長い期間働く住み込みの飯場にあなたをうまく誘導すると私をその飯場に送り込みました。


水商売の仕事が見つからないときは飯場のまかないもやったことがあるので仕事は問題がありません。

あなたと知り合うきっかけを作るだけだったのです。

土方は表に出ず、私だけがあなたに接触しました。

ごはんを少し多めに盛っていたら、気づいてくれましたね。

水商売を転々としましたので男あしらいには慣れています。

あなたの好みの女を演じることくらい朝飯前だったのです。

あなたは、すぐに引っかかりました。

心苦しいことではありましたが、子供のため、土方のため私はあなたを騙すことを続けました。


・・・・・・・・・
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