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或る男の半生30 [小説]

3.ひろみ(15)



仙台に移ったのは、名古屋周辺だと私のことを知っている人間が比較的多いから、どこかで土方のことがばれるかもしれないと思ったから・・・

でも、仙台での暮らしは楽しかった。生まれ故郷だし、土方との接触も少なかったし。

ただ、息子と会えないのが辛かった。

仙台でこのまましばらく暮らしても良いかなとも思ったのですが、この計画を進めている間はほとんど息子にも会えません。

早く終わらせて息子と暮らしたい・・・・。

それで、私は早く北海道に行くようにあなたを誘導しました。

でも、北海道に入ってからもなかなか本題に入ることは出来ませんでしたね。

弟さんのところでしばらく暮らしたり、お姉さんのところで隠れて暮らしたり。

北海道に入ってからは土方との連絡もつきにくくなりました。

息子の様子もなかなか伝わってこないので気が気ではありません。

はやく、はやく・・・ と心は焦るのですが、あなたは結構のんびりしていて・・・。

もう、別れることは決まってるんだから早く決着つければいいのに・・・

あのころはそう思っていました。

まゆみさんのことも 「なんて往生際が悪いんだろう。」 って思ってました。

やっと、まゆみさんとの話が始まったときはほっとしました。

「これで、少し前に進めると・・・。」

まゆみさんとの対面は緊張しました。

私の本心を見抜かれるんじゃないかって・・・・。

女って、勘が鋭いから。

でも、まゆみさんは本当にあなたを愛していたみたい・・・。

愛しすぎて過剰になってしまうことってあるみたい。

あなたのことを愛しているから、あっさり認めてくれたのだと思います。

冷却期間もたくさんあったし。

会ってみるとまゆみさんはいい人だと思いました。

少なくとも私のようにあなたを騙そうなんて思っていない・・・。

このときは悩みました。

いっそのこと本当のことを全て話して逃げてしまおうかと・・・

でも、土方と暮らしている息子のことを考えると、やり遂げなければという気持ちが・・・・。

あなたが、まゆみさんと別れた後は障害もなくなったので計画を粛々と進めるだけでした。

まず、周囲の人の信頼を得る。

これは、そんなに簡単なことではありませんでした。

私は両親もいないほぼ天涯孤独の身の上で、水商売を転々としていたような女です。

当たり前ですが、そんな女をホイホイ信用できるわけがありません。

信用を築くことに専念していたらすぐに時間が経っていました。

幸いにあなたは私を信用してくれていたので、役所の手続きなどを全て任せてくれました。婚姻の手続きなどは行わなくても知られる心配は少なかった。

それでも、年数がかかるとどこかから婚姻届が出ていないことがばれるかもしれない。

焦りながらも出来るだけ急いで信頼を得るために出来る嫁を演じてました。

一番疑り深かった2番目の姉さんの信頼を得たときは大きな荷物を下ろした気分になりました。

でも、ここからが本番です。

私はあなたに少しずつ都会での生活を吹き込んでいました。

徐々に、徐々に・・・・

そして、やっと名古屋へ出ることを決心させたのです。

長かった。

でも、もう少し。

もう少しで、息子に会える・・・。

名古屋に出てからは順調でした。

周りの目もないので結構自由に土方や息子とも会えたし・・・。

そして、最後の計画が始まりました。

不動産詐欺。最初に計画を聞いたときにはうまくいく訳がないと思いました。

二重売買なんて・・・。

絶対・・・・。

でも、私を信頼してくれたあなたは全ても任せてくれた。

全てを任せてくれればあとは思いのまま・・・。

お金を次々と振り込ませて、全て土方の元に・・・。

あとは、最後の締めですが、やはりきれいいに終わらせることは出来ませんでした。

結局二重売買が知られたときに、いつ逃げようかと、あとはそれだけでした。

あなたが、警察に行ったらその時点でおしまい。

でも、心の中ではそうなることを望んでいたのかも・・・。

あなたがたが、あまりにいい人過ぎたから・・・。

でも、結局私は逃げてしまいました。

あなた方から・・・。



今は、息子と暮らすことが出来ております。

でも、いつ警察に捕まるかと心の安まる日はありません。

それでも、自首することは出来ない。子供のために。


許してください。

ごめんなさい。


こんな言葉しか書けません。


忘れてください。


あなたは、あなたの人生を生きてください。


私はあなたにとっては悪魔でした。


早く、警察に被害届を出して忘れてください。


警察の捜査が進んで逮捕されるのならばそれも運命と従います。


自首は出来ない・・・



ごめんなさい。

あなたにとっては知りたくないことばかりだと思います。


でも、これが私の真実でした。


愛は・・・あったと思います。


そうでなければ、長く一緒に暮らすことは出来ない。


子供がいなければ・・・


土方より前に出会っていれば・・・


かなわない思いですね・・・


本当にごめんなさい。


早く忘れてください。

もう元には戻りません。




さようなら。



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